新たな体制をスタートしたチェルシー
7月14日、W杯決勝を間近に控える中、
チェルシーはコンテ監督の退任及び、新指揮官として
ナポリを率いていたマウリツィオ・サッリと新たに契約した事を発表した。
元銀行員という異例のキャリアを持つイタリア屈指の戦術家は、
ナポリで一時代を築いた名将であると言っていいだろう。
同胞コンテの後を託された59歳のサッリは
綿密な組織戦術をチームに施し、決して個人の技術だけに頼らない
明確なフットボールの哲学を持った人間である。
そんな彼が、CL出場権を手にできなかったチームに何をもたらすのか。
W杯の影響で主力選手がチーム合流に遅れる中、
今まさに戦っているICCでの試合において、彼の哲学は徐々に見え始めている。
速く、強く、そして強かに____
サッリが信奉する組織的なフットボールは、
決してカウンターやポゼッション一辺倒なものではない。
確かにエンポリ、ナポリと通してマイボール保持を大切にしてはいる。
が、それは相手に得点を与えさせない為の有効な手段としてであり、
時には劣勢を強いられたナポリ躍進を導いたのはカウンターの鋭さでもあった。
自身の持つ戦術的選択肢の豊富さを活かし、
チームにその時々で最適な指示、そして明確なプランを示すのがサッリなのだ。
その歯車が噛み合えばどれだけ魅力的なフットボールが見るのかは、
既にナポリで証明してみせている。
懸念は選手に高度な戦術的理解が求められ、
サッリが求めるまでのチームレベルになるまで時間を要する事。
サッリと共にコーチに就任したクラブのレジェンド、
ジャンフランコ・ゾラも「チームには時間が必要だ。」と発言している。
W杯を戦った選手の合流が遅れている事もチームにはマイナス。
開幕からいいスタートを切れるかどうかは、五分五分と言っていいかもしれない。
ICCで各国のクラブと対戦するなか、
サッリはチームに最適な攻守のバランスを模索しているようだ。
ショートパスによる流動的なポゼッションに拘る事もあれば、
サイドエリアの突破に重きを置いたシンプルな戦術をとる事もある。
彼自身、選手達の特徴をよく見極めつつも
”サッリ流”をどう今後浸透させていくかのプランを練っているのかもしれない。
ここまでの試合ではボールポゼッションを重視し、
守備のリスクマネジメントを主眼にチームコンセプトを纏めているように思える。
残念ながらW杯に落選してしまったD.ルイス、ペドロ、セスクら
実力者の存在も頼もしい限りで、
何よりハドソン=オドイら若手選手が好印象をここ数試合で残している。
チームの競争意識を激しくさせるという意味では、
ここまで良いプレシーズンを過ごしていると言っても良いだろう。
ナポリ時代はスターティングメンバーが固定的だっただけに、
このプレシーズンでの評価が、今季の起用に直接影響しかねない。
今のチェルシーの選手達には、良い意味で刺激的な日々がもたらされているはずだ。
新選手獲得を模索するも、難航する獲得交渉
サッリが就任し、まずクラブに求めたのは愛弟子ジョルジーニョの獲得。
エンポリからナポリに移籍した当時も、
才能を見出したヒサイやヴァルディフィオーリを獲得した過去があり、
今回もその例に違わず自身の哲学を完璧に体現できる”核”を得た。
彼がリクエストしたのは決して彼だけではないだろうし、
愛弟子たちの獲得がチェルシーとの契約条項に盛り込まれている事は確実だろう。
しかし度々メディアを騒がせるナポリの名物会長が
そう簡単に主力を手放すわけがなく、
ジョルジーニョの獲得でナポリとの交渉は終了したのではないだろうか。
欲を言えば、クリバリやメルテンスなども欲しかったであろうが…
ともあれ新顔の即戦力は現時点でジョルジーニョだけ。
クラブを離れていた有望な若手選手達の復帰は頼もしい限りだが、
リーグとELの過密日程を乗り越えるだけのスカッドとは考えにくい。
W杯の活躍もありアザールやクルトゥワ、カンテの移籍も騒がれたものの、
ここまで決定的な報道は出てきていない。
かねてよりクルトゥワの移籍報道はあり、
彼自身マドリー移籍には前向きであったものの交渉が纏まっていない要因は、
単純にチェルシーのフロントが代役確保に苦労しているから。
家族が待つマドリードへ行く準備をクルトゥワがしているかもしれないが、
今現時点での移籍の可能性は低くなりつつある。
アザールにしても然りで、チェルシーはマドリー側に
2億ユーロもの移籍金を求めたとも言われている。
彼以上の代役が市場に出ておらず、
サッリ自身も彼の能力の高さを評価している為、今夏の移籍はまずないだろう。
カンテに関しても同様で、破格のオファーが届きでもしない限り、
新シーズンもチェルシーのユニフォームを着てピッチに立っているはずだ。
主軸はモラタか、ジルーか
期待通りの活躍とは程遠かった昨季のモラタ。
新指揮官は彼の実力を高く評価しており、
ユヴェントス時代のモラタもサッリ自身よく知っているはずだ。
待望の子どもが先日産まれた事で公私共に充実してきているモラタ。
プレシーズンでは精力的に動きながらも、
エースとして決定的な存在感を発揮できずもがいている印象だが、
ジルーのチーム合流までにポジションを確立させたいところ。
対するジルーは、今夏母国をW杯優勝に主力として導いた実績がある。
得点こそ奪えずストライカーとしては失意の結果に終わったものの、
ムバッペやグリーズマンらのプレーを存分に引き出した献身性は称賛に値する。
目に見える結果こそ少なくとも、彼の存在自体がどれだけ重要なのかは、
昨季終盤にモラタからポジションを奪った事実が物語っている。
彼の魅力はプレーを見ない限り伝わりにくい以上、
合流が遅れてしまう事は彼にとって良くはない影響を与えるだろう。
しかしサッリは選手の実力を見抜く慧眼を持っており、
ジルーは今季も重要な存在としてチームに関わっていくはずだ。
最低限のノルマはCL出場権獲得
2018-19シーズン、チェルシーの主眼はCL出場権の獲得。
確かにリーグ優勝を目標にチームは動いているはずだが、
コンテが就任した時のようなサプライズが起こる可能性は限りなく低い。
昨季優勝したシティは盤石なチーム作りを進めているし、
何と言っても今季の優勝候補筆頭はリバプールだ。
エバートンやウエストハムなど今オフ積極的な補強をしているクラブも多く、
これまで以上に激しく、厳しいシーズンを送る事になりそうだ。
まずサッリに求められた今季の課題は
①来季CL出場権の獲得
②国内タイトルで優勝
③来季リーグ優勝、そしてCL優勝のダブルを狙えるだけのチームを確立
あたりと言っていいかもしれない。
昨季チェルシーはFA杯で優勝したものの、
コンテの退任に疑いの目を持つ人間は少なかったはずだ。
つまり、国内タイトルをいくら得ようとも、
チェルシーの指揮官に求められるタスクを遂行したとは言えないのだ。
かといって無冠で終わればサッリが来季も監督としてクラブにいる可能性は低く、
そういった意味でも彼にとって今季は難しいシーズンとなる。
特にELの存在が重たくチームにのしかかるはずだ。
CL以上にタイトな日程と試合数、そして強いられる長距離移動____
先述した通り、サッリの哲学をチームに浸透させるには時間が必要なのだから、
大胆なターンオーバーを用いて選手の競争意識を刺激しつつ、
選手の疲労度をどれだけコントロールして試合に臨めるかが重要となる。
戦術的な面し選手へのケアを怠ってしまうようでは、
サッリの船旅はそう長くは無いかもしれない。
何はともあれ、愛煙家でも知られるイタリア人指揮官に期待してしまうのは
仕方のない事。
華麗で流動的に戦うチェルシーを僅か就任1ヵ月で見せているのだ。
彼に十分な時間が与えられるよう、切実に願うばかりだ。
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Matthew |