「地球上の71%は水で覆われている。
残りの29%はエンゴロ・カンテがカバーしている」
フランスを代表するレジェンドで、
チェルシーのOBでもあるマルセル・デサイーはこう彼を評した。
ユニークな表現ではあるものの、
チェルシーでの働きぶりを踏まえればその言葉は決して不当ではない。
奇跡の優勝の立役者は、昨季苦渋のシーズンを過ごしたチームに加わった。
レスターという歴史に名を残したであろうクラブの中心として活躍、
リーグ戦最後の試合を終えたロッカールームでは、
チームメイト全員で「チーム残留の誓い」すら立てた。
とはいえビッグクラブが彼ら中心選手に興味を示さない訳もなく、
カンテだけではない多くの選手に移籍の具体的な話が持ちかけられた。
最終的に移籍してのはカンテのみであった為、
彼自身、その事を心残りにしつつも、チェルシー移籍を決断した。
彼がチェルシーに加入した事で、
栄光を取り戻したいブルーズが抱える中盤の問題の多くが解決した。
豊富な運動量でピッチの広いエリアをサポートしつつ、
レスター時代から見せていた持ち前の推進力でカウンターの起点に。
更に彼が見せたのは、守備面での貢献だけでなく、
「パスの出し手」として能力の高さでもあった。
元々レスターではカウンターの起点を担っていた事もあり、
ラストパスやシュートシーンまで持ち運ぶスキルの高さは評価されていた。
しかしチェルシーでは中盤の底、
低い位置でのビルドアップやサイドチェンジのロングボールの起点となり、
ゲームメイカーとしての役割を担っていったのだ。
これまで守備の負担を強いられていたマティッチを助け、
セスクに依存していたパスコントロールのメカニズムをサポート。
たった1人で、チームのバランスを整えてしまった。
首位をひた走るチェルシーだが、
率いるコンテからすれば満足のいくプレシーズンではなかったはずだ。
そもそもコンテはEURO2016を戦ってからチームに合流し、
あらかじめリクエストしていたであろう選手は悉く契約に失敗。
カンテ、アロンソ、ルイスの獲得は決して理想的でなかったはずだ。
コンテがチェルシーに新しく吹き込んだ3バックシステムも、
当初はなかなか機能性を見出せず、棚上げし4-3-3をメインに据えた。
連勝と連敗を経験したチームはその後3-4-3に再度チャレンジし、
現在の成功に繋がっては行くものの、
その過程には必ず「カンテ」という存在がいた事は忘れてはならない。
指揮官コンテは、
「彼は守備的MFというより、
MFとしてパーフェクトと言っても良いだろう。
素晴らしいスタミナ、高いテクニック、卓越したポジショニング。
3-4-3のシステムでは”プレス”を重要にしているが、
カンテは本当にうまくやってくれている。」
と、中盤の要に据えているカンテを評価した。
コンテが彼を高く評価している事は明白で、
中盤中央を構成するユニットには必ず彼を据える。
「カンテ+マティッチ」のコンビはプロテクトとリスクコントロールに秀で、
「カンテ+セスク」は中盤に構成力と一瞬の創造性をもたらす。
カンテを軸に選手を変える事で、
コンテはチームにメッセージと方向性をもたらしている。
そしてFA杯ユナイテッド戦のように、
ビッグマッチでゴールすら決めてくれるのだから、
文句のつけようがないだろう。
今季のPFA年間最優秀選手賞に、彼は勿論ノミネートされている。
攻撃を牽引するアザールと共に選ばれた彼だが、
その重要性は誰の目にも明らかであるはずだ。
ライバル・アーセナルの主将であり、フランス代表で共にする
コシエールニーですら、「リーグNo.1の選手はカンテだ」と口にする。
たった1人で何度もボールを奪い、
たった1人で試合を決定づけるカウンターを生み出す。
果たして彼の存在ぬきに、
チェルシーのこれまでの勝利はあったのだろうか。
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Matthew |