「最高の試合を出来た事が嬉しい。我々は勝利に値した。」
試合後、マウリシオ・ポチェッティーノ
4日の第20節、チェルシーがリーグ記録タイの14連勝を飾れるかどうかの一戦。
相手は昨季優勝を阻んだ因縁の相手、トッテナムだった。
スパーズからしてみれば、チェルシーは昨季終盤に
クラブの悲願である優勝を途絶えさせた憎むべき相手であり、
同じロンドンに本拠地を置くライバルとしてもアーセナルの次に嫌いな敵だ。
そんな相手が今、自分達に勝つ事でリーグ連勝記録を更新しようとしており、
さながらそれは既定路線かのような風潮さえ漂っていた。
しかし、そう簡単に試合が決まる程、
スパーズの選手、スタッフ、サポーターら全員は怯んでいなかった。
2-0でトッテナムが快勝
まさに快勝で、システムから戦術まで、
そのすべてがポチェッティーノのプラン通りに進んでいった。
選手達はモチベーションに溢れ、球際で最後まで戦い抜く。
そして攻撃のフィニッシュもまた狙い通りに、ゴールを奪い取った。
試合を通して選手に激を飛ばすコンテとは対照的に、
ポチェッティーノは冷静に指示を送り、自信と満足感が表情から伺えた。
○3-4-3へのシステム変更
この日トッテナムは通常の4-2-3-1ではなく、
3-4-3のシステムへと変更を決断。
ミラー・ゲームをチェルシーとの一戦で選択した。
チェルシーを止める為に多くのクラブが様々な戦術にトライしたが、
その全てが敗北を喫していた今シーズン。
しかしこの日のスパーズは急造システムとは到底思えない程の機能性、
そして完成度を誇っていた。
まず3バックは右からダイアー/アルデルヴァイレルト/フェルトンゲンと
対人・空中戦、そしてフィード能力に優れる構成。
さらに両WBにウォーカー、ローズというリーグ屈指のサイドを配置し、
その質はチェルシーに勝るとも劣らない顔ぶれ。
特にこの試合カギとなったのが両WBで、
ウォーカーとローズはそれぞれ対面したモーゼス、アロンソを圧倒。
攻撃では敵陣深くまで侵入しクロスを供給し、
守備時にはアグレッシブかつ不屈の対人戦で封殺。
文字通りサイドエリアを制圧し、
チェルシーの攻撃の要であるサイドエリアの有効活用を封じた。
中盤でのワニャマの働きも称賛されて然るべき。
ネガティブ・トラジション時には単独でピンチの芽を摘み取り、
中盤での構成力を飛躍的に高めていた。
またエリクセンが中盤トップ下の位置付近まで下がる事で、
エリクセン/ワニャマ/デンベレ vs カンテ/マティッチ
と中盤での数的有利を継続的に展開。
ボール奪取後のポゼッションを高めると同時に、
被カウンター時のリスク管理を徹底して行っていた。
中盤を制圧された事でチェルシーの前線、アザールやペドロも
中盤へ合流していくが、むしろそれがポチェッティーノの狙いであり、
前線で孤立したD.コスタに対してマーキング力に長けた3バックが対応。
自分達の強みを活かすと同時に相手の良さを消す、
理想のサイクルが出来上がりつつあった。
○ハイプレス&リトリート
この日のスパーズの選手達には闘志が溢れていた。
キックオフ直後から激しいチェイシングとコンタクトで戦い、
時にはカード覚悟のプレーで”闘う姿勢”を示した。
中盤で相手がボールを持てば即時奪回をめざし、サイドへ追い込む。
プレスを躱されれば躊躇いなくリトリートしてブロックを構築。
アグレッシブにボールを奪いに行きつつも、
いざ失点のリスクが高まれば迷いなく自陣に引き籠る。
潔くもハッキリとした守備の敷き方で選手達に迷いは無く、
高いモチベーションも相まって非常に堅い守備を構築した。
○ミスマッチを狙い、徹底した「形」
2得点はいずれもデレ・アリ。
そしてその両得点が、ポチェッティーノの狙い通りの形だった。
Dele.Alli 01 pic.twitter.com/lsYxVXfvBr
— Axel-SMITH (@FantaskickAxel) 2017年1月6日
Dele Alli 02 pic.twitter.com/l9q9hkBnOw
— Axel-SMITH (@FantaskickAxel) 2017年1月6日
サイドでボールを受けたエリクセンがクロスを送り、
ニアサイドでケインが空中戦に長けるD.ルイスやケーヒルをひきつけ、
ファーサイドで高さに劣るモーゼスとアスピリクエタに競り勝つ_____
論理的ながらも理想的なフィニッシュを描いた指揮官は、
その目論見通りに得点を重ね、最高の形で試合を進めた。
さらにこの形においてエリア内はデレ・アリとケインの2人のみを徹底し、
クリア後のリスク管理まで見据えての狙いだった。
むしろアタッキングサードの仕掛けは両WBのオーバーラップと
このエリクセンを起点としたクロスボールの2つくらいで、
昨季の強みでもあったショートパスを用いた”スモールの崩し”は破棄。
あくまでチーム全体で戦術的に….そんな意図が込められた試合だった。
緻密なスカウティングと選手のモチベーションの誘導____
ポチェッティーノはこの試合に対して相当の準備をし、
チームを勝利へとアプローチさせていた。
あくまでベースは闘志でありながらも、論理的かつ現実的なプランで
試合を効果的に進めていった手腕は称賛されるべきで、
シティ戦を2-0で破ったような完成度の高さを見せつけられた気分だ。
(それだけにCL敗退と現在の順位は残念極まりないが)
とにかくウォーカー&ローズの両翼は圧倒的であったし、
エリクセンとアリが見せた輝きはチェルシーを脅かしていた。
飛躍の翼であったはずのチェルシーの両翼はもがれ、
地に落とされては頭上高く飛ぶ相手に敗北を喫したのだ。
それだけにトッテナムにとっては非常に重要な勝利であり、
今季後半戦、再びタイトルへ挑戦するための分岐点にすらなるかもしれない。
惜しくも敗北を喫し、リーグ連勝記録を逃したチェルシー。
確かにライバル相手の敗北は意味が大きく、
逃してしまった勝利は「たかが一勝」ではないかもしれない。
しかし、「たかが一敗」とも捉えられるはずだ。
曲者ぞろいのプレミアリーグにおいて13連勝を飾る事は並大抵ではなく、
それこそ敗北を喫したスパーズの今季の順位がそれを証明している。
この敗北から学ぶ事は決して少なくは無いはずだが、
それでも根本的にやり方や試合へのアプローチを変更する理由にはならない。
今考えるべきは13連勝から得た自信と誇りであり、
自分達が成し遂げた事を胸に次の試合を心から戦う事だろう。
この試合で地に落とされたような気分だが、
この試合でチェルシーは再び地に足をつけて戦う事ができるのだから。
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Matthew |