イングランドにおける3バックは異端であり、
分化的に浸透しているシステムだとは到底言えない。
チェルシーも例に漏れず、過去3バックを採用した指揮官は皆無。
かつてユヴェントスにて3バックを確立したコンテも、
これまでの試合ではそのほとんどで4バックを採用した。
しかしコンテは3バックを諦めていなかった。
先日のハル戦で本格的に導入、2-0と結果も残した。
その日見せたチェルシーは、ここ数試合抱えていた問題を修正し、
今後に期待できる内容であった。
そこで今回は、ハル戦を参考に、3バック導入で改善した点、
そして未だ課題の点を挙げていきたい。
○ビルドアップの選択肢が増え、より効果的に
これまでのチェルシーは、ビルドアップは単調に尽きていた。
サイドに展開し、1対1に持ち込みクロス。
セスクが起用されない限り効果的なスルーパスもリズムも生めず、
個人の能力と判断に依存したビルドアップに終始していた。
3バックを導入する事で、これまでサイドで張る事の多かった
アザールとウィリアンがより中央でプレーするようになった。
また彼ら2人は自由なプレーエリアを与え、前線と中盤を動き回る。
相手のマーカーは掴まえきれず、彼らは相手の選手間でボールを受け、
以前よりも「前」を向いてのプレーが格段に多くなった。
中央で彼らが受ける事で自然と相手ブロックも中央に寄り、
サイドのM.アロンソ/モーゼスはしばしばフリーでボールを受ける。
中央とサイドの効果的な使い分けが可能となり、
これまで単調だったチェルシーの攻撃の選択肢は劇的に増えたと言っていい。
またD.ルイスからのフィードは大きな武器となった。
最終ラインから最前線まで高精度のフィードが入る事で、
D.コスタの懐の深いポストプレーを引き出せるように。
またロングボールを用いたサイドチェンジ、
2列目から飛び出したアザール、ウィリアンへのタッチダウンパスなど、
今後楽しみな攻撃オプションと成り得る。
○選手間がよりコンパクトに
4バック採用時、攻守において1対1の場面が多かったチェルシー。
攻撃時ならともかく、守備時にはリスクが高いうえ、
実際にサイドの1対1の負けがそのまま決定的なチャンスに結びついていた。
3-4-2-1のシステムは従来の4-1-4-1に比べ
選手間の距離が大幅に縮まった。
攻守の局面において数的優位を作れる場面が多くなり、
より連動してプレスとチャンスメイクが可能になった。
またカンテ、マティッチの両ボランチの運動量を活かし、
前線にどちらか1人を上げる事でセカンドボールも拾えるように。
従来のシステム以上に、中盤でのプレス強度が保てている。
マティッチ、カンテは無論、ウィリアンとアザールが
豊富な運動量を見せる事で、中盤は非常に強力なパワーを持っている。
×システムの成熟度が低く、フィニッシュに乏しい
4バックの時から言われている課題ではあるものの、
未だフィニッシュに関する大幅な改善は出来ていない。
これまで積み上げてきたゴール、とりわけフィニッシュは
個人の絶対的なクオリティーによってもたらされている。
そのためチームとしての形、フィニッシュまでの道筋は不明確で、
個人でのフィニッシュに長けたD.コスタが活躍する一方、
組織的な崩し等からエリア内で勝負するバチュアイが苦戦しているのは
1つの例として挙げられるだろう。
ゴールが個人の出来に左右される以上、このままでは
コンディション低下や対戦相手による研究が予想される後半戦、
チェルシーが苦戦を強いられるのは避けられないはずだ。
×CBの安定感
3バックを確立させるうえで必須なのが、
何より3CBにミスがない事。
彼らがビルドアップの起点となる以上、
相手にとっては潰し所となる。
また彼らが攻守における判断ミスをすれば
即失点のリスクが非常に高く、
常に安定したパフォーマンスが求められる。
その点でもケーヒルとD.ルイスは信頼感に欠け、
またテリーとズマを負傷で欠く現状は厳しいと言わざるを得ない。
イバノビッチのCB起用も選択肢としてあるものの、
今季の彼は身体的な衰えを隠せず、強みだったはずの対人戦で
軽率な判断から、相手を無理矢理ファウルで止める事が少なくない。
そのいった懸念からの、右CBにアスピリクエタ起用だろう。
今季も安定感が抜群で、守備時の判断ミスに定評ある彼をCBに置き、
少しでも失点のリスクを減らしたいのがコンテの狙いのはずだ。
またWB候補にはアロンソ、モーゼス、ペドロ、ケネディと人材豊富。
ウィリアンも対応できるだけに、攻守にバランスをもたらす事のできる
組み合わせを1日でも早く見出したい所だ。
ユヴェントス、イタリア代表において3バックを採用したコンテ。
今後は彼の持ち味でもある4-2-4と併せて可能性を探っていくはずで、
基本システムの4-3-3と使い分けていくはずだ。
ただ、様々なシステムに柔軟に対応できる人材が揃っているとは言い難く、
少しでも早く最適なシステムを見出す事が重要だろう。
選択肢は多いほどいいが、
全てが中途半端なまま勝てる程、プレミアは甘くない。
今季欧州カップ戦がない事は、戦術の模索に大いにプラス。
1週間かけて準備を行える以上、時間的猶予はあるのだ。
それだけに、遅くとも年内にはシステムを見出し習熟に図りたい。
そうでなくては冬の移籍市場でもまた、
コンテ自身が望む選手をリクエストする事すら叶わないだろう。
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Matthew |